忙しい暮らしと土の改善を繋げることが持続可能性を生む。コンポストで始める、半径2kmの栄養循環づくり【LFCコンポスト代表・たいら由以子さんインタビュー】

 
 

都市部で気軽に始められるスタイリッシュなバッグ型のコンポスト「LFCコンポスト」。2021年にはフランス・パリにも進出しています。LFCコンポストの生みの親であり、ローカルフードサイクリング代表のたいら由以子さんに、LFCコンポストのこれまでと未来についてお話を伺いました。

半径2キロの栄養循環をつくりたい

ーLFCコンポストが発表されたのは2020年ですね。それまでもたいらさんはコンポストと循環形成に携わってきたと聞きました。LFCコンポストをつくった経緯を教えてください。


1997年にNPO法人循環生活研究所を立ち上げ、毎日安全な食が食卓に上がることを目標に、堆肥づくり名人の母を最初に誘い、地域循環型のコンポスト研究と開発、普及活動を開始しながら組織化していきました。実践にもとづいた講座だったためすぐに、全国から年間で300講座の依頼が来るようになりました。忙しすぎて自分の食事がままらなくなり、それから人を育てる方向に50%方針転換をしたんです。私たちがそれまでの20年間で培ったものを1年で学べるようにして、育った彼らが地域のアドバイザーとして市民に教える形に移行し、1年間で8万5000人ぐらいにコンポストを普及する体制をつくりました。

20年経った頃、いまだ90%の生ごみが焼却されていることに改めて疑問をもち、2015年に一緒に活動してきた仲間と共に生ごみ資源化100研究会を立ち上げ、「ローカルフードサイクリング」プロジェクトを始動しました。その中で生まれたのがLFCコンポストです。

半径2キロの栄養循環をつくりたいから、バッグタイプなんです。栄養を2ヶ月ベランダで濃縮して、できあがったコンポストを近くのマルシェに持っていったら野菜に変えることができる。そんな仕組みをつくりたかったので。

lfcompost


ー20年以上、たいらさんがコンポストに向き合い続けている、その原動力は?


28年前に父が末期癌になりました。余命3か月を言い渡された時、父と話し合い玄米菜食をする食養生をすることになり、一緒に家に帰りました。その食養生は私が担当しましたが、当時は福岡市から2時間かけても、安全な野菜や水が簡単には手に入りませんでした。なんとか手に入れて食養生を続けた結果、父の命は2年ほど延びました。父が元気になればなるほどやはり食べ物は命だということを改めて実感し、背中に背負っている娘が、将来環境がもっと悪化した時に何を食べて、彼女が子育てをするのかという不安が大きくなったのもその時です。その食養生をしていた2年間の間にいろいろ調べ、これまで地球の土壌を汚しながら生きてきたのに、何もお返ししてこなかったと、きれいな野菜を選んでいた自分が悪かったことに気づきました。

父が亡くなった後、日々の忙しい暮らしと土の改善をつなげることができると、持続可能な暮らしが実行できるのではないかと考え、それをコンポストでやろうと思ったんです。

そして、今は80歳になりましたが、60年以上堆肥づくりをしている母をいちばん最初に誘いました。いろんな人がコンポストに取り組める活動をしたいから、一緒にしてくれと頭を下げました。それがスタートですね。


ー最近では小田急電鉄がLFCコンポストの市民配布を始めたり、さまざまな自治体や事業者とのコラボレーションもなされています。LFCコンポストを初めて2年間、いかがですか?


本当にやってよかったと思います。2021年にはLFCコンポストで生ごみ削減量約986トン、CO2削減量約484トンを達成しています。

LFCコンポストはボーダレスジャパンとジョインし起業しました。今では次女はNPOで高齢者の見守りコンポストを担当しています。長女は大学院でコミュニティコンポストの研究をして、3年ぐらい東京で働いた後に、今年LFCに入ってきてコンポストの継続支援を担当しています。

親子で働くって大変ですよ(笑)。でも、娘たちが自発的に動いている姿を見ると、私がおこなってきたことの成果も少しはあるかなと思いますね。このコンポストや土をつくることの成果ってなかなか出るものではないから。


ーお父様の養生をきっかけに、お母様から引き継いだ堆肥づくりをベースとして、今では娘さんたちも参加している。そのようにみんなに伝えながら一緒に取り組むのはコンポストの醍醐味のような気がします。


世界中の街のコンポストや循環づくりが徐々に広がっていますが、先進国のようにコンポストの仕組みが整えば整うほど顔が見えなくなり、手作業の伝授が難しくなっていきます。

だから私はその土地なりに、それぞれが循環をつくっていくことが大事だと思っています。「半径2キロの栄養循環」とはそういうことを指しています。住んでいるみんなが自分ごとにして自分たちなりの循環をつくるようになって欲しいと思います。

lfccompost2

「バッグの中は小宇宙です。本当に希望でしかなくて。コンポストの中では微生物が誰のためでもなく活動してくれていて。私はコンポストをはじめたとき、お世話になっているのに忘れていた、ごめん!って言いましたもの。働いてくれてありがとう、きれいに片付けてくれて、と思います。」(たいらさん)

コンポストは経験に価値がある

ー日本において、生活者のみなさんにコンポストは浸透してきていると思いますか?


私は昔から同じことを言って、同じことをやっているだけですが、今は過去いちばん盛り上がっています。地球の寿命を考えたら、もう悩んでいる暇も迷っている暇もないですからね。この5年でどう取り組むかが今後に大きく影響するでしょうし、取り返しがつかないとこまで来ていて、本当に今切迫していますからね。

気候変動が大きい、これはまずいとみんなわかっているけど、何をしたらいいかわからない。そんな中、土に触れたくなったり、自分で循環をつくる人は強いと気づいた時に、簡単に始められるというのが大事です。だから私は今そこに注力しています。コンポストは、経験に価値があります。コンポストの素晴らしさとか、楽しさをまず経験するってことがすごく大事なことなんです。

自分でやってみて、実感して話すというのは違いますし、その経験を言葉で伝えていく人がこの分野では必要なので、コンポストのインタープリターを増やしていきたいと思っています。もちろん私も活動家としてね。大変なこともいっぱいありますよ、未だにこの年になってもつらいことがあって泣きますからね(笑)。


ー2021年にはフランスにも進出していますが、欧米は日本よりもたくさんのコンポスト容器が存在するなか、日本生まれのLFCコンポストの魅力はどういったところにありますか?


今年はモンゴルに呼ばれて訪問しましたが、先進国よりちょっと経済発展が遅れている国でも、都市問題はまったく同じです。都市におけるインフラや、それにかかる災害への脆弱性などの課題ですね。土がある人はいいけど、都市に暮らしている人は、やはり自分の手元で栄養を濃縮して、それを地域の農家に繋げていく仕組みがどこの都市でも必要です。その点で、楽しい循環生活をベランダでできて、そのような仕組みをつくりやすいのがLFCコンポストの強みだと思います。循環をつくることは、栄養のループをつくること。都市部では家庭だけではできないかもしれませんが、堆肥を持ち歩ける手段としてバッグ型にしているからLFCコンポストならできます。

それに、今はヨーロッパが環境の取り組みにイニシアチブを持っていますが、日本は縄文時代から欧米より何千年も早く、循環の仕組みをつくってきた国です。江戸時代には世界一の地域の循環型社会を実現していたと言われていますし。それが昭和に入り戦後、土に戻す循環がなくなり温暖化が進んでいます。日本の元々の農耕民族の丁寧な暮らしを広めていきたいという気持ちはあります。


ーLFCコンポストでどんな未来を実現したいですか?


楽しい循環生活と、パブリックヘルスの実現です。楽しい循環生活が、地域の人の健康、自分の大切な人と自分の健康に繋がる。これを半径2キロ単位でつくる、ということを今後も変わらずに広めていきたいと思っています。

これはNPO法人としてスタートした時から思っていたことです。当初、10年後には実現して別の活動をしていると想像していたんですよ。でも30年近く経ってまだやっているから、どこかにハードルがあるのだろうと。考えた結果、それが「参加したいかどうか」の部分だとわかったので、今は振り切ってLFCコンポストに集中しています。つくりたい未来は最初から変わっていません。


ーコンポストを始めたいけどハードルを感じているみなさんに伝えたいことは?


現代は、週2回のゴミ回収もあるし、ディスポーザーもあるし、あっという間に目の前からなくなるから、 生ゴミで困っている人、生ごみについて考えたり、悩んだりしている人は少ないかもしれません。

でもコンポストって、生ゴミの処理や、コンポスト容器に入れた栄養の合計だけがコンポストの価値ではなくて、それをつくるプロセスがむちゃくちゃ楽しいんですよ。そのプロセスに学びがたくさんあって、教育効果の高いところが、私の一番のお気に入りどころなんです。

そのプロセスの中で、いろいろなことを楽しむことができます。たとえば園芸を楽しんだり、ハーブを育てたりとどんどん進化していきます。このプロセスを体験する価値はとても大きく、この楽しさを伝えたいから、一度だけでもいいから試してみて、ということを伝えたいです。この楽しい経験をしないともったいないと私は思ってます。

また、コンポストは暮らしの中で自分でできることを増やすひとつの選択肢になります。たとえば電気ひとつを考えても、私は薪ストーブで暮らしているから薪がなくなると危機的な状況になるので節約しながら使いますが、都会に暮らしているとボタンひとつでつくからその先がどこに繋がっているか考えませんよね。それは何かあった時に弱みにもなると思います。コンポストは自分で簡単にできることのひとつです。コンポストから広がって、自分ができることを地域に戻そうとか、地域のお困りごとを解決する思考や力がついてきます。

 でも、とにかくこの循環の輪を楽しんでほしいと思います。

localfoodcycling

この循環の中には、なんて美味しいの!とか、なんで畑でこんなに育つの?から入ることもできます。どこからでもいいけどこの関わりの中に入って欲しいし、見にきてほしい。


ー最後に。たいらさんにとってコンポストはどういう存在ですか?


コンポストは、親友でもあるし、生活の一部であり、そして未来をつくるものかな。コンポストを通したコミュニティづくりは一生続けていきます。

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コンポストをやっていなかったら今何をしていると思いますか?との問いには「絵を描いているかな」とのこと。サイトのイラストなどもたいらさん自身が描いているそう。

関連URL:

ローカルフードサイクリング株式会社/LFCコンポスト https://lfc-compost.jp/

NPO法人循環生活研究所 https://www.jun-namaken.com/

写真提供:

イラスト提供:LFCコンポストオフィシャルサイトより

聞き手:松原佳代(おかえり株式会社)


 
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