リサイクル率日本一を実現する大崎町に聞く、まちのコンポストのつくり方

 
 

リサイクル率日本一の鹿児島県・大崎町。現在、リサイクル率83.1%(※1)という数字を有する人口約1万2,000人のまちは、24年前からごみの分別を開始しました。生ごみもまた、町内の「大崎有機工場」にて堆肥へと生まれ変わっています。町で生ごみの堆肥化の取り組みを始めたきっかけ、そしてその意義、さらには自治体規模で堆肥化に取り組む是非について、一般社団法人大崎町SDGs推進協議会(以下、大崎町SDGs推進協議会)の中垣るるさん、藤田香澄さんにお話を伺いました。

埋立地の延命対策がリサイクルとコンポストだった

ー大崎町にてごみの分別が始まったのは1998年、今から24年前と聞きます。何がきっかけだったのでしょうか?


中垣るるさん(以下るるさん):大崎町は焼却施設を持っていない自治体でした。そのため、ごみは埋め立てるしかありません。1996年ごろに、このまま埋め立て続けると埋立処分場が予定していた期限よりも早くいっぱいになることがわかり、焼却炉を建設するか、新たな埋立場をつくるか、既存の埋立処分場を延命するかの選択が必要になりました。焼却炉の建設は、建設費はもちろん維持費がかかります。新たな埋立処分場の建設には土地の確保のため地域住民の同意が必要になります。そのため、大崎町と住民は延命を選びました。できる限り長く埋立処分場を使うために、ごみの量を減らそうと、1998年に缶・びん・ペットボトルの3種類から、ごみの分別を開始しました。

藤田香澄さん(以下、香澄さん):大崎町の場合は埋め立てられていたごみのうち、3割が生ごみ、3割が草木です。資源化できるものを探す中で、生ごみの堆肥化も重要でした。堆肥化は、資源ごみの分別開始から4年後の2002年に開始しています。


ー住民の協力がなければ進まない分別だと思いますが、スムーズに導入を進めるためにどのような工夫をなされましたか?


るるさん:当時の街の人口は1万4,000人ほどでしたが、大崎町内には約150の集落があり、それぞれ衛生自治会という地域ごとの住民組織があります。リサイクルのための分別を始める際、住民説明会を150の集落に対して3回ずつ行いました。役場から出向いて、丁寧に住民ひとりひとりに説明をしたと聞いています。お宅に伺ってこたつに入りながら話すみたいな感じで。

生ごみの堆肥化も、すでに他の資源ごみの分別が行われていたとはいえ、地道な取り組みの末に実現しました。生ごみの分別に特化した説明会を、全集落に向けて行ったという記録もあります。開始の1年前にモデル地区を設置し、生ごみの量や分別、回収の仕方の実証実験を行った上で全地区に導入したようです。

大崎町ならではの生ごみ循環の形。

ー大崎リサイクルシステムにおける、生ごみの回収から堆肥化の流れを教えてください。


るるさん:各家庭からはバケツで生ごみを回収します。落ち葉などの草木は家庭から回収したもの、リサイクルセンターに持ち込まれたものを使います。「有限会社そおリサイクルセンター」の関連施設である「大崎有機工場」で堆肥化は行われています。生ごみはいったん破砕機で粗破砕し、草木もチップ化した上で、保管場に運ばれます。最初の1週間は週に2回程度、その後は1週間に1回攪拌し、約4~5ヶ月後に完全な堆肥に生まれ変わります。

そおリサイクルセンターの関連施設である大崎有機工場。ここで堆肥化が進められる。(写真提供:大崎町SDGs推進協議会)

有機工場でつくられた堆肥は、大崎町の農地で使われています。その堆肥は「おかえり環ちゃん」と名付けられ、17年前から販売も始まっています。

だけど販売当時は、生ごみからできた堆肥というと、住民のみなさんには抵抗があったようで。もちろん、どういうものが含まれているか、成分を袋に書いてあるんですが。

そこで、リサイクルセンターが2005年に「ななくさ農園」という農業法人を立ち上げました。その完熟堆肥を使って有機栽培で野菜を育てて見せて「みなさん、本当に大丈夫ですよ」と。今では理解をしていただいて人気の堆肥になっています。

環ちゃん

ななくさ農園と堆肥「おかえり環ちゃん」(上下写真提供:大崎町SDGs推進協議会)

ー堆肥化を進める際、家庭のコンポストでもそうですが、みなさん匂いを気にされますよね。匂いをはじめ、1万2,000人分の生ごみを良い堆肥に変えるのはさまざまな苦労と努力があったと想像します。


るるさん:まず、そおリサイクルセンターが有機工場の運営委託を受けて運営しています。そのリサイクルセンターのみなさんは当初、堆肥化をされているあらゆる施設を見学に行き、試行錯誤されたと聞いています。今の仕組みに安定したのがここ10年ぐらいとおっしゃっていて、最初はものすごく苦労したそうです。

匂いについては、生ごみを最初に破砕する際に、匂いを軽減し、発酵を促進する効果があるヨモギの乳酸菌を振りかけています。ヨモギはその辺りにたくさん生えているので、それを使ってセンターの方が培養をしています。ヨモギに限らず、植物であれば乳酸菌はつくれると思うので、何を原材料とするかは各地域で地産地消できる、最適な素材を探すのがいいかもしれませんね。

でも、乳酸菌をかけなくても匂いはそんなにしません。フレッシュな生ごみであれば匂いはそこまで気になりません。そのため、大崎町では週に3回、回収をしています。一度腐敗してしまうと、堆肥化するときに、マイナスからのスタートになります。なので、時間と手間を減らすために、まずフレッシュな状態で家庭から出していただいて、フレッシュなまま回収する。これが大事なポイントですね。

ヨモギの乳酸菌を製造する機械。できた乳酸菌を発酵中の堆肥に振りかける。

ー家庭から生ごみが出て、完熟堆肥として戻ってきて、野菜に生まれ変わる循環を街のみなさんが体験できる仕組みですね。


香澄さん:1万2,000人の人口でできる堆肥は現状余ることはありません。20haのななくさ農園で7〜8割は消費してしまうほどです。

るるさん:大崎町の場合は、土地があり、畑仕事をする人も多いため堆肥を使う場所が多いですし、量も少ないので堆肥が足りないぐらいですが、20万人の街で堆肥化を進めた時、その街が都市部で農地がなければ余ってしまうかもしれません。

香澄さん:都市部でも屋上庭園がたくさんあるなら……。あとは、環境省の地域循環共生圏の考え方で、良好な関係をつくっている都市と周辺の農山漁村同士で必要なものを融通し合うことで、生ごみの量と堆肥の量の調整をするとかはできるかも。

生ごみでできる完熟堆肥の成分は、化成肥料と比較するとそこまで豊かではありません。そのため慣行農業をやっている方にとってはやや物足りないものではあります。だから地域に完熟堆肥を使ってくれる有機農家さんがいるかどうかも大事ですね。

むしろ、都市部の場合は生ごみを堆肥にするよりもメタン発酵でエネルギー回収する方が使い道があるかもしれませんね。こちらは大きなプラントが必要になり、地方だとその建設費を捻出するのが難しいかもしれないけど、都市部ならある程度投資をして、堆肥化より発電に繋げるほうがコストがかからず、ごみの削減にもなるかも良いかもしれません。


ーリサイクル率日本一を、この20年間のうちに14回達成されているのですね。住民の皆さんの協力あってのことだと思います。他の自治体でも分別に悩まれている方は多いと思いますが、住民の皆さんの協力を継続する秘訣は?

るるさん:リサイクルを開始して以来、「環境学習会」を1年に1度、必ず開催しているんです。埋立処分場、リサイクルセンター、有機工場などの現場を見学してもらって、埋立処分場の残容量が逼迫していることを行政がまず見せて、住んでいる人たちが、自分たちが出してるごみが埋め立てられなくなったらどうなるか、自分ごととして考える機会があることがとても大事だと私は思っていますし、視察にいらっしゃる方には伝えています。

香澄さん:大崎町の一人あたりの年間ごみ処理経費は、全国平均が1万6,800円のところ11,500円です(※2)。全国平均より低く済んでいるのは、住民が分別に協力してくれているから。また、大崎町としても、ごみ処理の機械や建物などにコストを割くよりは、役場職員が何度も出向いてごみ分別の意義を町民に伝えるなど、コミュニケーションにコストをかけています。


ー分別や堆肥化を進めて、街に起こった変化はありましたか?


るるさん:町内の子どもに調査をしたことがありました。「自分たちの街で誇れるものは何ですか?」との問いに、「リサイクル」という回答が多かったんですよ。彼らは「リサイクル・ネイティブ」なんです。「燃えるごみってなんですか?」という質問から始まる。そんな子どもたちから、大人が教えられることは多いです。



街でコンポストを始める時に考えたいこと


ー大崎町では、すべての資源が街の中で循環していく「サーキュラーヴィレッジ・大崎町」の構想の実現に取り組まれていますよね。昨年はコロナ感染症の感染拡大があり移動が制限されている中でも、年間400人が視察に訪れたと聞いています。焼却炉の老朽化に直面している自治体もあり、世界では生ごみの堆肥化を義務付ける自治体も増えて注目されていると思います。この大崎リサイクルシステムをインドネシアなどの海外に広めたり、国内外に展開を計画されているとか。興味を持っている地域の方にメッセージがあれば。


香澄さん:海外は焼却炉を持たない地域が多いので、むしろ海外の方が大崎町の仕組みは導入しやすいのではないかと言われることもあります。日本国内は焼却炉があるのでまず検討をされるときに考えてもらいたいのが、大崎のようなリサイクルシステムを導入して本当にコストが減るのか。

焼却処理施設は、ある一定稼働させ続けなければならないので、生ごみが減ったときに焼却処理施設の稼働を減らして維持できるのか。今の焼却処理施設って、生ごみとプラスチックがちょうどいいバランスで燃えるようになっています。生ごみだけ減ると焼却炉に負担がかかる可能性もあるのでちゃんと調整していく必要があります。

また、大崎町の場合は国立研究開発法人 国立環境研究所との共同研究(※3)で生ごみを堆肥化した時と、同規模の自治体で焼却処理を行ったときの比較で、温室効果ガス(※4)の排出量にどれぐらいの効果があるかを調べたところ、大崎町リサイクルシステムの堆肥化の方が38.5%低いとの結果が出ているので、脱炭素の効果はあるかと思います。ただしこれは、各市区町村でしっかり調べた方がいいと思っています。

また、先に話したように、有機農家が使ってくれる可能性が高く、堆肥の活用場所が町内にあることも大事です。従来輸入していた化成肥料も今後手に入りにくくなる可能性があるので、地域内で調達が進み、有機農業にシフトするきっかけにもできるのではないかと思います。今は有機野菜の販売ルートも少ないので、有機野菜の販売先、購入できるお店を地域に増やすことも必要になりますが、そのきっかけにもなると思います。

そして、一番大事なのは、住民の理解と協力があるかということと、町内の廃棄物処理業者で一緒にこのシステムをつくってくれる人がいるか、ということです。

やる気がある自治体職員の方はぜひいつでも大崎町SDGs推進協議会に相談に来てください!


ー大崎町にとってコンポストとは?


るるさん:大崎町に住む私たちにとっては、もう当たり前で普通のこと。なくては困る存在です。


※1 2022年3月29日環境省発表の2020年度時点数値

※2 令和3年度の環境省発表数値より試算 https://www.env.go.jp/press/110813.html

※3 https://www.osakini.org/osakini-pj-02-20220318/

※4   地球温暖化の原因となる温室効果をもたらす二酸化炭素、メタン、フロンなどの総称。

【中垣るるさんプロフィール】

大分県別府市生まれ。るるはスワヒリ語で真珠の意味。中学生の頃から声楽を学び、オペラの舞台にも出演経験がある。民放にてラジオリポーターを5 年、NHK 大分にてテレビ・ラジオキャスター、リポーターとして4 年間出演。2021 年4 月より、合作に入社。大崎町SDGs推進協議会の事務局の広報を務める。フリーアナウンサーとして、各種イベントMCなどもおこなう。


【藤田香澄さんプロフィール】

長野県で生まれ、南太平洋の島国ツバル、キリバス、フィジー育ち。12歳で帰国。早稲田大学国際教養学部で環境問題、東京大学公共政策大学院で地域政策や行政学を学ぶ。卒業後は鎌倉にある面白法人カヤックというITの会社に入社し、地域通貨や移住マッチングサービスなどの企画担当をする。 地域と関わるうちに自分もプレーヤーになりたい気持ちと、兼ねてから興味のあった環境問題に関わる仕事がしたい気持ちが高まり、2021年4月にリサイクル率日本一の鹿児島県大崎町へ移住し、合作株式会社に入社。大崎町SDGs推進協議会の事務局として大崎リサイクルシステムの他地域展開に関するプロジェクトマネージャーを務める。



聞き手:松原佳代(おかえり株式会社)

文:Composter編集部

写真提供:大崎町SDGs推進協議会

 
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