太陽と風と土があれば、どこでも誰でも始められる。キエーロ開発者松本さんに聞きました

 
 

神奈川・葉山に在住のご夫婦が25年ほど前に生み出した「キエーロ」というコンポストをご存知でしょうか?鎌倉をはじめ、日本全国の自治体で導入助成金が用意されていることもあり、近年各地で広まりを見せているコンポストです。自宅の庭の片隅でのちょっとした企てから始まった「キエーロ」の開発ストーリーとキエーロでコンポストを始める面白さについて、開発者の松本信夫さんに伺いました。

「紙やプラスチックを自分で処理することはできないかもしれないけど、生ごみだけはちょっと工夫すればできるでしょう。生ごみさえなければ、いいことがこんなにありますよ、ということを伝えたい」と松本さん

庭の片隅での思いつきと偶然からキエーロははじまった

ー松本さんがキエーロをつくったきっかけを教えてください。

葉山に越してきたのは45年ほど前になります。当時の葉山の住宅の付近は単独浄化槽で、排水がU字溝へそのまま流れていました。葉山ですから、流れていくと相模湾の海に辿り着きます。台所から流した油も。それを知ってから、夫婦揃って生ゴミの処理に興味を持っていました。

土に埋めるタイプの緑色のコンポスターをご存知ですか?昔は自治体で無料で配っていたんですよ。それを使っていましたが処理する時に匂いが出ました。妻がそのゴミの匂いにセンシティブだったことや、そのコンポスターを使うだけでは堆肥にならないので、土と混ぜたりする作業が伴うことから、電動の外に置くタイプのものを使ったり、いろいろと試しました。微生物が活動しやすいように基材を入れるタイプだと、年に4,000円程度の費用がかかります。

当時、使っていた電動タイプのコンポスターが故障したんです。でも毎日生ゴミは出るわけです。そうした時に、昔、子どもが使っていた砂場が庭の隅っこにあるのを思い出しました。我が家には大きなケヤキがあるので、秋になると大量の葉が落ちます。その砂場を、落ち葉を貯めておく場所として使っていたんです。そこで、思いつきで生ゴミをサンドイッチみたいにぽんと放り込んで落ち葉を重ねてみたんですね。何日か経ってみたら、匂いもせず、分解していました。それが始まりです。


ーその砂場コンポストからどのようにして今の箱型のキエーロに辿り着いたのでしょうか?

葉山の街のブログに「みなさん、生ゴミってどうやって処理していますか?うちはこんなやり方でやっています」と投稿したら、その日のうちに見学したいという方が来ました。その人は、うちからの帰宅途中、ホームセンターに直行して自分でつくっちゃったんですよ。

そのような見学が時々ありまして、当時は砂場に家を建てた時に余った波板を被せていただけだったので、ちょっと見栄えを良くしようかと、箱を木でつくり、蝶番で屋根を固定したんです。それが少しずつ進化して今に至ります。

最近は「DEPT×リビセン」によるキエーロも登場。庭つきの自宅に引っ越した際に導入したとか。せっかく虫たちのチカラも借りられる環境だからこそ、キエーロが楽しいそうだ(写真提供:minami fukamoto )


キエーロの定義はわずか3つ。風と太陽と土

ーキエーロは公式サイトで「つくり方」も公開していますし、各自でつくることも推奨なされていますよね。「キエーロ」と呼ぶための定義はありますか?

まず、雨が直接当たらないように屋根があること

そして、太陽の光を取り入れたいので屋根を透明にすること。キエーロは微生物の働きで生ゴミを分解します。微生物の働きは完全に温度に依存しますので、土の温度を上げる必要がある。そのためには太陽の光を取り入れることが必要です。

そして、風通しを良くするために密閉しない。隙間を開ける箇所はどこでもいいです。

構造的には、この3つだけです。


ー密閉せず隙間をつくった、片流れ屋根のような形はキエーロの大きな特徴ですよね。これは最初から?

この形になったのは偶然です。キエーロの原型となった砂場をつくろうと思った時、庭の端にもともと土地の境界線となるコンクリートの低い敷居があったんです。後ろはその敷居を生かして、その手前にブロックで長方形の区画をつくったところ、その奥の敷居が手前のブロックより少し高かったんですよ。そこに家を建てた時に余っていた波板を置いたものだから、斜めになりました。もう本当に偶然です。

みなさん、やっぱり臭いものには蓋をしようと、密閉したがります。それが失敗のもとなんですね。生ゴミは8〜9割水分と言われているので、大量の水が蒸発し、結露を起こして腐敗が進み、匂いが発生して虫が寄りやすくなります。

今もたまに砂場があった場所で実験をやっていますが、蓋も何もなくても匂いはしません。落ち葉の間に生ゴミを放り込むだけで消えます。虫は来るけど、虫に食べさせてもいいと思えばね。それくらい気楽にハードルを下げないと始められないですしね。


ー場所はできたとして、中に入れる土はどのようなものがよいのでしょうか?

実は、これは駄目というものはありますが、これがいいというものはないんです。

微生物に生ごみを餌として食べてもらっているわけですから、微生物がそこに住めればいい。砂は住みにくい。また、粘土系の土は向いていません。砂じゃなくて、粘土じゃなければ、どんな土でも大丈夫です。黒土がいいと広まっていますが、当時どこでも売っていていちばん安いのが黒土だったので、そういう意味で黒土と言ったんですよね。

たとえばプランターで花や野菜を栽培した後の、使い古したプランターの土でも十分。栄養がなくなった土を生まれ変わらせることができますしね。そのままプランターに生ゴミを投入したっていいわけです。そこにまた苗を植えるとか、種を撒くのもいいですよね。

ー庭にある雑草やいろいろなものが生えている土でも大丈夫ですか?

まったく大丈夫です。土の上にそのまま置くので。土は無限に繋がっています。無限に広がる大量の土で生ごみを分解しているのがキエーロなんです。

ベランダ用のキエーロをつくったのは、見学にいらっしゃる方でマンションに住んでいる方も増えてきて、マンションでもコンポストを持ちたいと相談を受けるようになったので、下がコンクリート打ちっぱなしでも使えるようにしようかと、後になって考えたものです。微生物の働きは土の量に完全に比例しているので、少しでも土の量を多く入れたくて背を高くする工夫をしています。

神奈川・逗子の住宅に設置されたキエーロ。5年前に生ゴミの処理のためにと導入。2回の引っ越しを一緒にしたという。

ー松本さん自身が今でも自分で試作しながら展開されているんですね。ちなみにどれぐらいの量をこれまでに出荷されているのでしょうか?

数千台かな。最初は友人や知り合いにつくってくれと言われて、いろいろな形、いろいろなサイズをつくっていました。年間400台ほどつくった年もあります。1日4台、鎌倉に運んだ日もありました。

匂いがない。土の量が増えない。ランニングコストゼロ。

ーずばり、キエーロの特徴を教えてください。そしてどんな人が向いていると考えていますか。

匂いがないこと。ずっと入れ続けても土の量が増えないことが特徴だと思います。

そして基材となる土を増やす必要もないので、ランニングコストがゼロです。

キエーロに限らず、家庭での生ごみ処理は、とても多くの人が始めるのですが、ごく少数の人が続けられるとよく言われます。キエーロはその中では続けている人が飛び抜けて多いコンポストです。その辞める原因の一番は、虫と匂い。失敗は何かと聞かれると、コンポスターに何を期待しているかによって失敗は違ってくると思います。典型的なケースは「虫が湧いた」ですが、虫はいてはいけないのか?というと虫が気にならない人にとってはそれは失敗ではありません。

キエーロは、そのゴミが消えることや、土が増えないこと、微生物の働きを見て、面白いなと興味を持つ人は長続きするかな。家電製品じゃないから、面白がってほしいですね。それに、どうしてなんだ?と普段から物事を深く考えるようにしていないと、うまくいかなかった時に、お手上げになりやすいですね。

あまり真面目に考えずに、一部でも少しでもゴミを自分で処理できるとわかってもらえるといいかなと思います。生ゴミがなくなれば、ゴミを出す回数も減らせるし、回収する行政の人も楽になるし、カラスも来なくなる。環境の問題やプラスチックの問題もありますが、何よりもちょっとの負担で、油の処理や自分の暮らしが楽になる。それでいいと思います。

面倒臭くなったら辞めて、またやりたくなったら始めればいいんです。楽しようと思って導入したのに、こういう使い方をしなければならないと正解に近づこうとしたり、生ゴミを全部処理しようと挑戦したりすると却ってストレスになりますからね。もうちょっとズボラにやめたい時はやめればいい。そのぐらいの気楽さでやってほしいですね。

穴を掘ってその中に生ゴミを埋め土と混ぜ、乾いた土をかぶせるだけ。同じ場所に埋めず、順番に場所を変えながら埋めていく。

生ゴミ処理は仕事ではなく、人として必要な活動

ーキエーロをこれからどのように展開していきたいと考えていますか?

コンポストに触れてもらったり、話を聞いてもらう機会を増やす活動をしていきたいと思っています。関西や四国、九州など全国各地にキエーロを広めたいと思ってくださる方が少しずつ増えているので、繋がりを持って広げていきたいですね。九州や北海道までガソリンを使って葉山から送るのはおかしいのではないかと思い、つくりませんか?と言ったり、断ったりすることもありましたが、その地域、地域でつくるような形も生まれてきています。廃材を使ったり、シルバー人材の方が協力してくれたりしながら。ようやくここ数年、そのような連携が形になり始めています。

生ゴミ処理は、これまで家庭の主婦にとって、洗濯や掃除のような仕事だと思われていたと思います。でも僕は、大袈裟かもしれないけど、生ゴミ処理は仕事じゃなく、地球で生きる人として必要な活動、そんな気がし始めています。


ー松本さんにとってコンポストとはどういう存在ですか?

僕は最初は単純に生ゴミを消滅させたいと思っていただけでした。堆肥をつくりたいと思ったことも一度もありません。このコンポストを始めたことで、想像以上に微生物の働きがすごいというのを感じています。地球環境や多様性のような今あるいろいろな課題も微生物を見ていく中で答えが出てくるような気がしています。コンポストはそういうことを勘づかせてくれましたね。ちょっと大袈裟に言うとね。

キエーロでは微生物が生ゴミを食べてくれていますが、僕らと微生物は密接に関係していて、彼らのおかげで外敵から守られているんですよね。キエーロは、微生物との付き合い方を考えるきっかけになると思います。他の研究に比べて微生物のことはまだ全然わかっていないそうですよ。だからこそ、キエーロをやりながら考えてみると面白いんじゃないかな。

「小さいのと大きいのを用意すると、ほとんどのみなさんが小さい方をとります。でもキエーロは特別な機材ではなく、単純に土の中の微生物に食べてもらうだけなので、土の量が生ゴミの処理量になるんですよ。だから大きい方がいいし、土と繋がれる、直接土に置くスタイルがいいんですね」(松本さん)

ー最後に、コンポストを始めたい読者に伝えたいことはありますか?

僕らは大量生産、大量消費の世界にいますが、リサイクルすれば解決できるものではなく、生ゴミ処理を見ていると、本当に食料も買いすぎだと思います。生ゴミ処理の前に買いすぎているところを考えて欲しいですね。そして捨てすぎています。

ちょっと前まで冷蔵庫にあって食べられるものだったのに、まな板で調理をした後から生ゴミになる。その中にはなんでこれがゴミとして捨てられるのか?というものがあります。あなたにとってどこからゴミなんですか?と問いたいですね。本当に食べるものがなかったらきっと食べるものがあるはずです。買いすぎないようにするところから始めて欲しいと思います。



松本伸夫さんプロフィール
神奈川県葉山在住。1980年ごろからコンポスト「キエーロ」を開発。25年以上、キエーロを全国に伝え広めている。

関連リンク:キエーロ公式サイト 
https://kieroofficial.wixsite.com/kiero

聞き手:松原佳代

 
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