コンポストトイレで、一番身近な循環をつくる。【おかえり 増村江利子のコラム】
田舎暮らしで生ゴミの堆肥化をはじめて1年が過ぎた頃、9坪程度の家へと住まいを移すことに。汲み取り式トイレを浄化槽にするか、簡易水洗にするか、下水道をひくか。普通に考えると三択ですが、そのどれでもないコンポストトイレの導入に踏み切りました。なぜコンポストトイレを選んだのか、その理由や使ってみての所感をお伝えします。
文 増村江利子
現代におけるトイレ事情って?
都市部では当たり前に整備されている下水道処理ですが、田舎や山間部などでは、下水道が整備されていない地域も残っています。山小屋をイメージしていただくとわかりやすいかもしれませんが、山小屋1軒のために下水道をひくのは大変なこと。当然費用もかかります。仮に上水道、つまり飲料用の水はひいていたとしても、下水道はひいておらず、トイレは汲み取り式という住宅は、日本各地にまだたくさん残っているのです。
汲み取り式トイレのアップデートを考える際の、一つ目の選択肢が簡易水洗です。簡易水洗は、トイレの見た目は一般的な水洗トイレですが、便器の下はそのまま便槽となっていて、水洗で水を流すぶんだけ汚水が溜まるペースが早くなって、汲み取りの頻度も高くなります。
二つ目の選択肢は、小型の浄化槽を敷地内に埋め込んで、微生物が汚れを分解してから用水路や河川へ流すという方法。年1回の定期清掃や法定点検などが定められており、浄化槽内の微生物のために空気を送るブロアーという機械を24時間動かし続ける必要があります。
三つ目の選択肢は、普通に下水道をひくこと。維持管理のための費用はかかりませんが、下水道につなぐための初期費用がかかります。
さてどうするか。家電をできる限り使わない暮らしをしている私にとって、常時電気を使うことになる浄化槽という選択肢はあまりありませんでした。簡易水洗も、結局は汲み取ってもらわないといけない。ではなぜ下水道につなぐという選択をしなかったのか。ここには、現代の下水処理への疑問がありました。
「土に還さない」という選択肢でいいのか?
生ゴミの堆肥化を通してわかったことは、土に還るものであれば、ごみにはならないということでした。大量につくって、大量に消費をして、大量に捨てる。最終的に燃えるのだからごみになってもいいじゃないか、という考え方もあるかもしれませんが、大量生産や大量消費のループから抜け出すヒントは、最後の捨てる部分を変えることにあるのではないか、と考えるようになりました。
捨てる量は少ないほうがいい。燃えないごみも少ないほうがいい。生ごみがなくなったことで、量と匂いから解放されて、ごみ全体と向き合うことができるようになったのです。
そして、土に還るかどうか。その視点をもったことで、社会をみる視点までもが変わってしまったように感じました。道路の舗装に使われるアスファルトは、必要最低限なのだろうか。土に還る環境そのものが奪われてはいないだろうか。その視点で暮らしのひとつひとつを眺めていくと、住まいの中で一番疑問を感じたのがトイレでした。
世界を見渡せば、下水道処理が整っていない国はたくさんあります。下水道処理がしっかりとされているおかげで、衛生環境が保たれている。でも、処理施設で処理をされたら、昔は養分として土に還っていたはずのものは、どこへいってしまうのか。
現代の土は、どんどん養分がなくなって細くなっている状態なのではないか、と考えるようになりました。陸上の養分がどんどん海に流れていく。川は護岸されているから養分を回収できないし、海に流れ着いたら、鮭が川上りするようには帰ってこれない。例えばトマトの味が昔より薄いと感じているのですが、これは作物に含まれている養分が、10年前に比べると40%くらい失われているという事実と無関係ではないと思うのです。
私は、できる限り循環する暮らしをつくりたいと考えています。突き詰めて考えると、一番循環していないものは、実はトイレなのではないかと思いました。とはいえ失敗はしたくない代表例とも言えるようなコンポスト。多少の勇気は必要でしたが、やってみないことには何もわからない。やってみよう、と思いました。
ウォシュレットつきコンポストトイレ
先ほど、家電をできる限り使わないと言ったものの、冷蔵庫や炊飯器、掃除機はなくてもトイレはウォシュレットつきがいいと考えている私にとって(矛盾していてすみません…!)ウォシュレットが使えないことは最大のネックでもありました。
ウォシュレットが使えるコンポストトイレを探してみると、すぐにヒットしたのが「こまらんeトイレ50W型(https://www.comaran.com/)」。ウォシュレットと消臭のために電気を少量でも使うことにちょっとだけ後ろめたさがありましたが、浄化槽よりも消費電力は小さいだろうと思い、コンポストトイレを自作しようとする夫を説得し、この商品を導入することにしました。
<画像:こまらんeトイレ50W型Webサイトトップページ>
大小が分離していて、撹拌は手動。コンポストトイレの導入から10ヶ月を迎えようとしていますが、あくまで感覚値ではありますが、生ごみよりも堆肥になるのが早いと感じるほど。今のところ順調に土に還すことができています。
コンポスト基材の主成分は、ピートモス、バーミキュライト、燻炭。基材が少なくなってきたら、定期的に酸性度調整済みのピートモスを投入します。そして冬場は微生物を活性化するための資材として、バイムフードを投入しました。特別なものは何も使っていないのに、特に匂いも気になることなく維持管理ができていることに驚いているくらいです。
いかがでしたでしょうか。コンポストの中でもコンポストトイレはハードルが高いと思われるかもしれませんが、始めてみると、それほど手がかからない、というのが現時点での感想です。水洗トイレだろうとコンポストトイレだろうと、掃除をしなければいけないのは同じ。トイレに流すか、土に養分として還すか。ぜひ一度は考えてみてくださいね。