都市部の汚泥浄化で生まれた微生物が土壌と堆肥を豊かにする。世界の農地再生と持続可能な未来をつくる、東京発の土壌改良剤「東京8」

 
 

「汚泥」とは、さまざまな事業や生活から発生した泥状の廃棄物のことを指します。東京都内で発生する排水からもその「汚泥」は生まれています。その排水由来の汚泥の浄化を永く手がけてきた太陽油化(株)が、その微生物を活用したプロジェクトチーム「東京バクテリアラボ」を設立したのは2015年のことでした。それから研究を重ねて生まれた土壌改良剤が「東京8(トウキョウエイト)」です。「コンポストの基材としても有効」という話を聞きつけて、東京8の研究開発事業を率いる、太陽油化専務取締役の石田陽平さんにお話を伺いました。

最初は東京8の有機物分解能力を着目し、消臭剤としてスタートしました。他の廃棄物を受け入れているような処理業者の臭気問題を解決できる商品として開発をはじめたとか。

お野菜やお米の重量や収穫量が増える!土壌改良剤

ー東京8は農地に使用する以外にも、コンポストの基材に使うことができると聞いてお話を伺いに来ました。聞いたところによると、農地で使用すると収穫量や品質などに大きな変化が起きるそうですね。

東京8は有機JAS資材の登録が完了している土壌改良剤です。稲作、ジャガイモなどの野菜、さまざまな国内外の田んぼや畑で使われています。

インドネシアの稲作の実証実験では、東京8の使用により収穫量が1.4〜1.5倍にあがっています。またホウレンソウでは、1.5倍ぐらいの重量になり、ジャガイモは大きさが整ってくることがわかっています。

2022年に鹿児島のお茶農家さんに散布いただいた事例では、1回散布しただけで、通常90%しか収穫率が見込めない日当たりなどの面で条件がよくない畑ですら、100%を超える収穫量になりました。また、葉面に散布することでカテキンの含有量も増えたという結果が出ています。そして2回散布した場合には、さらに45%収穫量が増えました。

お茶畑では、0.3haの実証実験からはじめてこのような結果が出たので、2023年は1000倍となる面積の300haのお茶畑で使っていただいています。また、大学と連携して、トマトやほうれん草の栄養価や成分の分析も進めています。

東京8を使った時と使っていない時のキャベツの根張りの変化の様子

廃油処理からなぜ土壌改良剤が生まれたのか?

ー東京8を販売してる(株)太陽油化さんの事業は、廃棄物処理業ですよね。そこからどうして土壌改良剤に行き着いたのでしょう?

弊社の創業は60年前になります。先代である私の父が創業者です。父は幼い頃、祖父の仕事で満州に渡り、1946年、11歳のときに帰国しました。父は自動車の整備やタクシー運転手をして生計を立てたのですが、当時のタクシーの乗客は、投資家や政府の高官などの役職者が多かったようで、そこで得た情報の中から、物資のない日本では資源を循環するようなビジネスがキーワードになるのではないかと考え、使用後のエンジンオイル(廃油)のリサイクル事業をスタートします。今も太陽油化で続く一番古い事業です。

現在、太陽油化は廃棄物処理を主軸の事業にしていますが、廃棄物の中でも、液状の廃棄物を主に取り扱っています。特に、汚泥と呼ばれるものは、悪臭もしますし、すごく不安定で厄介な廃棄物です。社会から廃棄される汚泥から、ビルなど商業施設から廃棄されるし尿のような一般廃棄の汚泥まで扱っています。平成10年に東京都が汚泥の海洋投棄を禁止したと同時に委託を受け、それ以降、この汚泥処理を事業にしています。

簡単に汚泥について説明しますね。東京都にはたくさんのビルがありますが、その下のちょうど地下階は、下水道よりも低い位置にあります。そのため、ビルには排水を貯めるための槽を必ず設置しています。その槽からポンプを使って引き上げて、下水道に流していくというのが東京都の多くのビルの仕組みになっています。排水はその槽内にしばらく溜まっている状態にあるので、下の方には、特に濃度の濃い汚泥が堆積するんです。東京23区内ではその汚泥を回収するために、清掃業者がバキュームカーに乗って常にまわっています。そこに堆積した濃度の濃い汚泥を処理する先が、弊社で、都内に2社しかありません。

太陽油化さんより資料提供

汚泥の処理方法は、微生物による処理がメインです。常日頃、東京23区のあらゆるところから集められてくる汚泥の形状や性質は、コロコロと変わっていくものですから、今日はうまく処理できたけれど、次の日はうまくいかないといったことが発生します。設備を改善したり機械を増やしたりしながら処理能力を高めてきましたが、開発が進んでいる東京都内で、敷地を広げること困難となり、処理をする微生物たちを強化するしかない、中で活動している微生物の能力を引き上げるしかない、となりました。 そして2006年ごろに汚泥処理の効率を上げるための微生物の研究を始めました。

ー微生物によって汚泥が分解されるのですね。その微生物を植物に使おうと思うまでのことを教えてください。


汚泥の浄化は、汚泥の中に存在するアンモニアやタンパク質、アミノ酸のような有機成分を無害な水と窒素ガスに分解していくものです。汚泥を処理できる微生物なら、同じように農場の土壌の有機成分も分解できるのではないか、土壌の有機物を植物が吸収しやすい状態に持っていけるのではないかと思いました。そこで、大学の先生たちの協力のもと研究がスタートします。植物に対して、よく汚泥を処理する微生物を添加してみて、どういう変化が起きるかを実験し、その時の微生物の状態を観察したのです。埼玉大学との共同研究では、どんな微生物がいるのか、どんな構成になっているのかというところまで、すべて解明してもらいました。

東京8に含まれる微生物の分類図

これは簡易版で、中分類ぐらいまで分類分けしたものです。微生物は単にバラバラと存在しているわけではなく、グループとして集合した状態で存在しています。微生物は人と同じように、個体同士で交信をしています。微生物は酵素を生成していて、交信したい相手の微生物と反応して、その反応に応じて微生物の挙動が変わっていきます。同じ種類同士ではなくても、違う種類同士でもおきます。この交信は微生物間だけではなく、植物の根っこも酵素を生成したりしながらおこなっています。そうして、植物に必要な栄養素を根っこに共有していくということが起こっています。繰り返し検証し、開発しながら、2012年に「東京バクテリアラボ」という微生物のプロジェクトチームを太陽油化の中に設けて、この交信が広がっている微生物のコミュニティを商品化したのが「東京8」です。

ー先ほど伺ったように収穫される農作物にもよい影響が見られているようですが、農家さんへの導入は順調だったのでしょうか

効果が出る「東京8」ですが、売り込むのには苦労しました。やはり汚泥からつくっているものなので、どうしても汚泥発酵肥料というカテゴリに入りまして、農業に従事される方々が使ってくれませんでした。そのため、有機農業でも使えるように改良をしました。

製造フローをすべて変え、汚泥を発酵させてつくるのではなく、そこから一度微生物だけを抜き取って、微生物を汚泥ではなく有機農業でも安心して使えるバイオマスを利用して培養することに改善しました。そして、普通肥料として登録をしなおし、有機JASの資材登録を完了した頃から、冒頭の鹿児島のお茶農家さんなどから使ってみたいと声がかかるようになりました。


東京発!開発途上国へと広げ社会課題解消を目指す

ー日本全国各地での活用を広げるほか、どのような展開を考えていらっしゃいますか。

現在、開発途上国 に向けて、事業を展開している最中です。製造フランチャイズ、つまり各国のパートナーが現地で東京8を製造、生産、販売してもらう方式で今進めています。

東京8の我々が持っている製造装置は、広く世界に流通しているものを活用しています。ゆえに現地で製造装置の材料を調達していただいて、装置をつくってもらうことも簡単に出来ます。装置があれば、あとは種となる菌、そして水と、家畜のし尿のようなバイオマスがあれば現地で製造することができます。

現在は、モザンビーク、インドネシア、モーリタニアでこの製造装置がつくられ、東京8の製造がはじまっています。アフリカは、2014年にABEイニシアティブという制度でたくさんの方が日本に留学していまして、その皆さんの中で興味を持ってくださった方に、サンプルを提供し実験してもらいました。

サハラ砂漠の近く、ジャングルの中、荒野だったり、草原だったり、みんな環境が違いましたが、どこでも割と効果が出ることがわかりました。成果の出た方の中から、実際に事業を進めその国に広めていっていて、現在たくさんの国で進んでいます。

現地の人が現地の材料でつくることで、コストを下げ、現地の物価にあった価格で販売することができます。そうすることで現地の農家さんも購入できます。収穫量が増えると農家さんの売上もアップします。使用実績でわかったことは、科学批評を活用した既存の農耕よりも東京8を使ったほうが収穫量が上がることもわかってきたので、肥料に使ってたいた費用を抑えることもできて、東京8を購入したとしても、トータルでの資材コストが抑えられれば、持続可能な農業、地域経済が築けます。そして、この活動が外務省のジャパンSDGsアワード受賞のきっかけとなりました。今後、この流れを弊社だけではなく多くの企業や団体と連携し、さらなる発展へと結び付けていきます。

ー世界の農地の課題だけではなく貧困などの課題解決にも繋がっていきそうですね。

東京8は、土壌改良や生物多様性の構築だけでなく、いろいろな問題に対してソリューションになりうると考えています。東京8の土壌改良はその過程で多くの炭素を土壌に貯め込むことがわかってきています。これは、植物の光合成によって大気中の温室効果ガスを取り込み、土中に封じ込める、いわば地球温暖化対策に大きく貢献できる機能です。

東京8によって作物の収穫量や品質を向上させ、なおかつCO2の削減までできてしまうということになります。

東京23区の飲食店や商業ビルなど人の生活、営みから生まれた汚泥が我々のところに来るときに、一緒に原型の微生物もやってきます。その汚泥をリサイクルしてつくったのが東京8です。それが農地を経て、おいしい野菜になり、さらに食品に転換されて、レストランや商業フィールドでも使われ、また汚泥が発生し、我々の下にやってくる。持続可能な資源循環のループが回っています。この資源循環のループを、日本国内だけでなく海外でもたくさん増やしていきたいですね。社会、世界のプラネタリバウンダリーの改善になったらいいと思っています。

ーコンポストに東京8が使える、というお話を聞いて、今日はインタビューに来たので、最後に教えてください!家庭でのコンポストに東京8を活用することはどうお考えですか?

それは嬉しいですね。我々も特に匂いがひどい処理の過程では東京8を入れるのですが、東京8を入れると匂いが抑えられます。発酵を加速できます。自社でも使っているので、一般の家庭でも使ってくださるのはすごく嬉しいことです。

(以上)

太陽油化専務取締役 石田陽平さん

汚泥処理場で研究をし始めたのが微生物との出会いだとか。「臭いの元を止めて、自分の働いている環境をよくしたかった。もっと未来に夢のある商売にして、自分の仕事がすごい仕事だと未来を生きる、子どもたちに伝えたかったんですよね」


関連URL:東京8公式サイト https://www.tokyo8global.com/

太陽油化 https://www.taiyo-yuka.com/

写真提供:太陽油化

聞き手:松原佳代(おかえり株式会社)











 
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