県庁に勤務し定年後に起業。徳本和義さんと生原商店が挑む、浄水場発コンポストがつくる地域の循環

 
 

浄水場生まれで、たくさんの微生物とミネラルを含む天然の泥「瀬織」。この瀬織を基材に活用する「せとうちコンポスト」という名のコンポストがあります。広島県産の廃材、そして広島市の浄水場から生まれた「瀬織」と葦、籾殻くんたんを基材として使う、オール広島産のコンポストです。

この「せとうちコンポスト」は、2023年5月に広島で開催されたG7で、世界からの注目を集めました。G7広島サミットの各国の記者が集まる「国際メディアセンター」にも導入されたばかりのこの「せとうちコンポスト」。

この「せとうちコンポスト」が生まれるまで。そしてこれからの展開を紹介します。

生原商店と瀬織との出会い

「せとうちコンポスト」を手がけるのは、広島にて生原商店を営む生原誠之さんです。生原さんは、もともと広島の瀬戸内で周遊型観光業を営んでいました。2019年にコロナ感染症が起こり観光業が縮小する中、偶然にも「瀬織」の産みの親である徳本和義さんと出会います。

徳本さんと生原さん

徳本さんは、大学で電気工学を専攻したのち広島県に30年以上勤め、下水道、浄水場などの県が保有する施設を管理する仕事に従事してきました。昭和62年には、下水処理の際に生じるガスを活用する、消化ガス発電施設建設の提案により、年間のコストカットを実現し県知事賞を獲得するなど、アイデアを形にするパイオニアとしての実績のある方です。

現在、全国に浄水場は約5,200箇所あります。簡単に説明すると、近隣の川から汲み上げた水を浄水場で濾過をし、綺麗になった上澄みが家庭へと供給されています。その濾過の際に沈殿した泥は汚泥と呼ばれ、産業廃棄物として処理されてきました。

そんな中、徳本氏は、汚泥の処理方法のひとつである、自然のエネルギーを活用した「天日乾燥床の汚泥処理方法」に着目しました。上澄水の排除と濾過により汚泥の含水率を低下させた後、天日による蒸発を手段として乾燥させ、産業廃棄物として処理をする方法です。その天日乾燥床に新たなサステナブルな技術を開発し、「サンドトレーンパイプ2段天日乾燥法」(製造方法特許取得)として、浄水場の汚泥処理費をゼロにすることに成功しました。

平成3年まで時は遡ります。当時、三次市とは別の浄水場に勤務されていた徳本さん。前庭に桜の木を植えたそうですが、その根が、約30cm 離れた場所で乾燥し凝固していた汚泥の山に向かって毛根を伸ばしていました。当時、その浄水場で働いていた徳本さんは、この汚泥の可能性に気づいたそうです。

その後、しばらくの時を経て、徳本さんは退職をして起業します。自主研究を重ね、通常行っていた天日乾燥が一次乾燥だとしたら、もう1段階乾燥を進める二次乾燥によって、固形化することに徳本さんは成功します。また、大学教授との専門的な研究により、こちらの汚泥が水質浄化・土壌改質材として有効活用できる、微生物の活性資材であることがわかったとか。

現在、三次市の浄水場では、その技術が活用されている全国で唯一の浄水場になりました。全国にはまだこの技術が活用できる浄水場が約500箇所ほどあるそうです。

天日乾燥をして瀬織を作る様子

工程を経て完成した瀬織

徳本さんと出会い、この技術と「瀬織」の魅力に魅せられた生原さん。出会ってから1年間、「瀬織」の製造現場に通い、一緒に研究をすることに。その最中の2020年に「生原商店」を創業しました。そして現在は、「瀬織」の販売責任者として土壌改質材の「瀬織」を起点としてコンポストを開発。さらには、瀬織を使ったお米の製造販売などの事業を展開しています。

「瀬織によって、廃棄されていた浄水場のごみがゼロになり、その廃棄を賄っていた税金のコストカットになります。さらに瀬織としてリサイクルすると土壌改質材となり土着に戻せます。そして地元の農家とお米をつくるなど一次産業とタイアップして、ローカルブランドを確立できます」(生原さん)

この瀬織は、浄水場の廃棄物のアップサイクルであり、今後全国の浄水場が直面するであろう、廃棄物処理の課題を解消するひとつの策となる可能性があります。さらに、地域のさまざまな産業とのコラボレーションの可能性も秘めた土壌改質材です。

広島の地産地消にこだわりながらさまざまなコラボレーションの可能性を探る生原さん


「瀬織」を使ったコンポストのこだわり

瀬織を基材として使うコンポスト「せとうちコンポスト」。その成分はどんなものなのかを伺ったところ、


「大学の研究室で調べてもらったところ、とにかくたくさんの微生物が瀬織の中には存在してしました。川の水を使っているので山の中のものが全部集まってきている、とイメージしてください。山の成分は地域によって異なるので、おそらく他の土地の浄水場で瀬織をつくったら、土地によってその成分は違うと思います」(生原さん)

山があり、川があり、浄水場があれば、どこでもつくることができる可能性を持つ瀬織。全国の浄水場にも広がる可能性を考えて、「せとうちコンポスト」の基材には、瀬織の他、日本全国どこにでも生息するであろう、イネ科の多年草「葦」、そしてお米の栽培が続く限り得ることができる「籾殻くんたん」を使っています。そこには、「お米をつくろうね」というメッセージもあると生原さんは言います。

「瀬織」によるコラボレーションの形

「瀬織って天然の泥なので、 衣食住という全ての世界とタイアップができるんですよね」(生原さん)

お米に限らず、瀬織を土壌改質材として活用して、ブドウをつくってワインをつくる。またお米から日本酒もできると言います。また、最近では、陶芸作家さんから、瀬織を釉薬に混ぜて塗ってみたいと申し出があったとか。

現在の生原商店では、土壌改質材としての「瀬織」はもちろんのこと、コンポストの他に、瀬織米(玄米)を販売しています。地産地消を目指したいということで、まずは地元のお店で販売するほか、オンラインでも販売しています。せとうちコンポストは広島市内の無印良品でも販売をしているそうです。

広島ではさまざまなお店で販売を試みている

瀬織を使って育った米は「瀬織米」として販売もスタート

「廃棄されていた瀬織から、また地元の土に戻しローカルの衣食住のブランドを確立していく、街全体の循環のあるまちづくりを、生原商店のビジョンに置いています。そのブランディングも一緒にやっていこうと思っています」(生原さん)


そしてまもなく、「せとうちコンポスト」の第4世代とも言える、木箱タイプのコンポストも発売されます。これまでの3タイプは、コンポストの導入編。まずは手軽なところから始めてため、コンパクトだったり、コーヒーとのセットでコーヒーかすだけでチャレンジするタイプだったり、ビギナーでも開始しやすいものでした。第4世代となる木箱タイプは、庭に置き、本格的にコンポストを導入したい方向けとなっています。

Vol.03は地元のコーヒーロースターとのコラボレーションで、コーヒー豆とセットになっている

Vol.04は木箱タイプ


広島県産にはこだわり、広島を拠点に活動する建築家、ure代表 岩竹俊範さんがデザインし、神社仏閣の建築に採用される「木組み」という釘を使わない工法でつくられています。地元の廃材を活用し、柿渋や焼杉といった方法で防腐を試みるとのことです。受注生産ではありますが、2023年の初夏から発売される予定です。

「瀬織」と生原さんの挑戦は、全国の浄水場にも展開できる可能性を秘めています。廃棄物の、別の可能性に目を向けること。循環づくりの出発点とも言えますが、この「瀬織」は浄水場発のまちの循環づくりの好事例となっていくことでしょう。



生原誠之さんプロフィール

生原誠之プロフィール1

1979年 神奈川県横浜⽣まれ広島育ち。2020年4月より「環境に優しい」をテーマにした商品を取扱う⽣原商店代表を務める。


関連リンク

生原商店 https://ikuhara-shop.myshopify.com/

写真提供:生原商店

聞き手:松原佳代

 
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