下北沢が変わった!シモキタ園藝部がコンポストと共に目指す、緑と循環のある下北沢

 
 

かつて「開かずの踏切」として知られていた下北沢の小田急線。その小田急線の東北沢駅から世田谷代田駅の区間が地下化され、2020年、再開発された下北沢に「下北線路街」が誕生しました。シモキタ園藝部は、まちの植物を守り育てていくことを目的としてコミュニティとして発足しました。発足当時は、15名ほどが集まる小さなコミュニティでしたが、2021年には一般社団法人となり、現在は、約200名が部員として登録しています。


現在、シモキタ園藝部では、「シモキタのはら広場」を中心とする植栽の維持管理や、養蜂事業、そのシモキタハニーの販売、拠点となる「こや」(下北沢駅そば)の運営、スクールやワークショップ事業などを行っています。そんなシモキタ園藝部のなかで、コンポストチームを担当するのはシモキタ園藝部理事の斉藤吉司さん(以下、よしじさん。よしじさんにお話を伺いながら、シモキタ園藝部とコンポスト活動の紹介をしていきます。

シモキタ園藝部にコンポストが登場するまで

よしじさんとシモキタ園藝部の出会いは、シモキタ園藝部が発足したばかり、部員もまだ数十名だった頃でした。当時、よしじさんは趣味で園芸を楽しみ、自宅の周りでコンポストに取り組んでいたことがきっかけとなり、Facebookでの告知を見て園藝部に参加したそうです。

その頃は、現在の活動拠点となっている建物「こや」や、下北沢小田急沿線上に緑が広がる「シモキタのはら広場」もなく、下北沢「ボーナストラック」の植栽の手入れや線路街空き地の手入れを行っていたと言います。メンバーには、下北沢にゆかりがあったり、興味をもった人が集まり、本職は造園家だったり、ウェブデザイナーだっったり、イラストレーター、ランドスケープデザイナーだったりとさまざまな仕事をそれぞれが行いながら、活動をしていました。よしじさん自身も建築設計士として普段は仕事をしています。

現在のシモキタのはら広場(左手)とこや(右手前の白い建物)

園藝部の活動は、植物を「植える」「育てる」「活かす」「還す」の4つが軸になっています。まず「植える」と「育てる」は、多摩川の近くから在来種の種を採取してきて広場に蒔いて育ててきました。そして「活かす」は、できたハーブを広場のそばにあるお店「ちゃや」でハーブティとして提供したり、詰んだ野花を生かして、リースをつくったり、ハーブティを仕込んだりするようなワークショップの開催をしています。

よしじさんは立ち上げ当時から「コンポストをやりたい」と話し、園藝部としてのコンポストが始まりました。それが「還す」の活動となり、今は、園藝部の大切な活動のひとつです。

「自分は園芸も大好き。自宅の庭に雑草がいっぱいあったんですよ、それを堆肥にできると思ったら、なんか雑草がすごく宝物に見えてきて」とよしじさんはコンポストの魅力を話します。

園藝部で最初のコンポストは手づくりのミミズコンポストでした。ボーナストラックの発酵デパートメントのオーナー小倉ヒラクさんにアドバイスを受けながら、スタートしました。

当時のみみずコンポストの様子

最初の頃は、曜日ごとに当番を決めて、家庭から、飲食店から、毎日ミミズコンポストに餌となる生ゴミを投入していたそうです。興味深いのは、ボーナストラックに入る「Why Juice?」さんと「かまいキッチン」さんを巻き込んだ取り組みです。Why Juice?さんは生搾りのジュースを提供しているため、たくさんのパルプ(搾りかす)が出ます。それをそのまま生ゴミとするのではなく、かまいキッチンさんで、ケーキなどに練り込む食材として利用してもらい、最終的にかまいキッチンさんから生ごみをコンポスト用にいただくことにしたとか。ここにも、下北沢の他のお店を巻き込んだ小さな循環が生まれました。

こうしてシモキタ園藝部のコンポストは始まりました。

現在、そのみみずコンポストは、「空き地」と呼ばれる線路街の屋外に設置されています。

シモキタ園藝部のコンポスト事業はアイデアと共に発展

園藝部の主事業は線路街の植栽管理であるため、そこで出た剪定材と雑草の処理がみみずコンポストでは間に合わなくなりました。2022年5月、新たに広場の中に「なや」と呼ばれるコンポスト小屋をつくることになります。

小屋の設計も建築ももちろん部員たちで。材料はちょうどビルの建て直しのため移転が決まっていた下北沢のブックカフェ「ダーウィンルーム」の廃材を主に利用することになりました。みんなで床材を剥がすところから始まり、設計にもアイデアを持ち寄ります。

「コンポストを作るにあたっては、考えたのは、とにかく通気性をよくしようということです。廃材の材料を、互い違いに組んで、空気が入りやすいようにしました」(よしじさん)

「なや」をつくるときから運用まで考慮し細部に工夫が施されている。互い違いに組まれた板。

バークレーメソッドと呼ばれる短期間で土に還す方法を目指したそうです。運用を開始してからは、1週間に1度、みんなで切り返し作業をしていましたが運用の負荷が高かっため、改良。

「50ミリのビニールパイプに穴を開けて、そのパイプをコンポストの中に突っ込みます。そして庭木の落ち葉に使う園芸用ブロワーで空気を送る装置を自作し、1週間に一度空気を送り込むのを試しています」。

なやをつくる前、廃材が集められた。ここからDIYがスタート。

等間隔に穴が開けられたビニールパイプ

コンポストの中に数本のビニールパイプを入れる

ブロワーで空気を送り込むことで「切り返し」に近い空気を送り込む仕組みをつくった

コミュニティコンポストの継続には、運用の負荷を下げることがとても大事です。みなさんのアイデアと、建築士やデザイナーという専門スキルを持ち寄って改善改良を重ねながら、コンポストは進化しているようです。現在は3ヶ月で土にかえる循環が形成できているとか。

街の人が参加できるコンポスト活動

シモキタ園藝部の活動は、自分たちが起点となって、下北沢全体に広がっていくことを目指しています。コンポストも「なや」とミミズコンポストで、堆肥化をして循環をつくるに止まらず、下北沢エリアの住民を中心に、他の生活者にコンポストの魅力を啓蒙していく活動もしています。

たとえば、下北沢のみなさんが自宅で使わなくなったコンポストを持ち寄って使ってみる企画や、2023年の4月に行われたイベント「アースデイ下北」における「なや」での切り返し体験。2023年5月におこなわれた「下北線路祭」の時には、コンポストのショールームを開催しています。発電するコンポストや、自作のミミズコンポスト、よしじさん自身も実験中の身近なもので誰でもできるコンポストを展示したそうです。

100均のランドリーバッグの中に、草と水加えて発酵させたよしじさん自作のコンポスト

展示された発電コンポスト。コンポスト内で分解するときに発するエネルギーを使って電球を点灯する様子。

「自分でコンポストをやっていらっしゃる方は、そのコンポストに思いがあります。いろいろな説明書をご自身でお持ちになって、訪れた方にも自分で説明もするんですよ」(よしじさん)

コンポスト好きの人たちが集まってきて、コンポストに興味がある人が知り学んで、コンポストをスタートするきっかけの場にも、この園藝部の開催するイベントはなっています。また、失敗した時には相談できる場としても存在したいとよしじさんは言います。

シモキタ園藝部の次なるチャレンジ

「リンゴ箱でつくったキエーロを年間100個売りたいと思っています。一般家庭で1日250グラムの生ゴミが出るとすると、100世帯あれば、年間で10トンの生ゴミを出さずに自宅で処理できるようになるんです。それをやりたいなと思っています」

その構想に向けて、リンゴ箱のキエーロでどれぐらいの期間で生ゴミが消えるかを実験中だとか。このよしじさんの企みは、ワークショップを自分でリンゴ箱を使ってキエーロをDIYするところからスタートします。実際に、前述の5月のアースデイでワークショップを実施、5世帯で今、そのキエーロは動いています。

活動をしていく中で、コンポストのことを知った街の人たちが、この循環づくりに自主的に参加する動きも出てきています。たとえば、果物屋さんが、皮をゴミに出す量を減らしたいということで、乾燥したものをコンポストのところに持ってきたり。飲食店の方が牡蠣の貝殻を持ってきて、分解促進剤として活用したり。シモキタ園藝部が起点となり、循環のある暮らしが広がっていっています。

「コンポストは、そんなにハードルは高くないと思います。器もやり方も、切り返しも最初のうちはわかりませんよね。だから私たちが、一緒に器をつくってあげて、持って帰っていただいたり、やり方も適性に応じたものを選んであげて、始めてもらえれば、意外と簡単にできるのではないかと思っています」

みんなが日常的に行き交う駅前の広場にコンポストがあることは、まちの人が循環を考えたり、循環に参加したりするコミュニティづくりにひと役買っていそうです。これから、シモキタ園藝部とコンポストが、下北沢にどのような変化を起こしていくのでしょうか。

(編集部撮影)

斉藤吉司さんプロフィール

職業は建築設計。「雑草が堆肥になると解った瞬間、雑草が宝物になりました。そんな宝物探しを、シモキタ園藝部で実践しています。設計のスキルを活かして、新しい循環をカタチにしていきたいです」。

関連リンク:シモキタ園藝部 https://shimokita-engei.jp/
写真提供:シモキタ園藝部


聞き手:松原佳代(おかえり株式会社)
編集:composter編集部

 
Previous
Previous

【お知らせ】composterが「はつひので」と共同で鎌倉でコミュニティコンポストプロジェクトを開始!

Next
Next

夏休みの自由研究にコンポスト!『LFCコンポスト 自由研究キット』限定販売開始